活動

2021.03.26

[活動]親子遊びと親ミーティング

親子遊びの効果

 震災直後の福島県では放射線不安による多くのストレスで母親たちの笑顔が消えてしまい、同時に子ども達にも緊張感が高まり笑顔が見られなくなった状況が続きました。特に心身ともに限界に近いと感じられた避難中の親子支援のために始まったのが、保育士による親子遊び&心理士による親ミーティングの試みでした。地域の保健師などの専門家と連携しながら少しでも日常を取り戻し親と子が元気に慣れるように丁寧な活動を続けて来ました。

 初めて親子遊びの会場に入ってきた親子は、緊張のためか表情が暗かったり、無表情だったり、あるいは、イライラとした様子も見られましたが、二時間後の会が終わる頃には、子ども達は親に抱きついたり、おんぶしたりなど充分に甘えたことで安心し、親とも少し離れて子ども同士で生き生きと遊ぶ姿を見せてくれました。同時に、親たちは子どもの笑い声や楽しそうにはしゃぐ姿に勇気づけられホッと一息ついてリラックスし、笑顔を取り戻すことが出来た様子でした。

 県内各地で開催したこの親子遊びは継続参加をすることで大きな効果を得ることが出来ました。安心・安全な空間の中で親と子がお互いに目を合わせゆったりと触れ合いながら「遊ぶ」ことで次第に心身ともに解放され信頼関係も深まり、子どもが落ち着き親も子育てに自信が持てるように変化してきました。

親子遊びのニーズ

 時間の経過と共に表面上は落ち着きを取り戻しているように見える福島ですが、子育て中の親の不安は消えたわけではありません。未だ避難中のご家族の苦悩はますます大きくなっていますし、震災後に生まれたお子さんのためにも長期的な支援が必要です。

 今後も、わらべうたを通じて赤ちゃんとの触れ合いの大切さを伝えたり、就学前の子ども達が親と関わりながら身体を充分に動かせる遊びを提供したり、参加者同士の繋がりが持てるような集団遊びも楽しめるように工夫するなど、子どもの育ちをみんなで支えながら、福島の親子が元気になれるようあたたかな場を各地域に広げていきたいと考えています。

親ミーティングの効果

 親ミーティングは、臨床心理士がファシリテーターとして入ることにより、誰しもが共有できる育児の悩みを切り口に、話しにくいことを安心して話せて、共感支持され、自己効力感を回復する場になっています。

親ミーティングのニーズ

 話題は育児の悩みだけではなく、放射線不安、震災当時のこと、避難先のこと、避難先での生活のこと、家族のこと、これからの生活など多岐に渡ります。

避難先のこと

 避難先に定住することを決めたものの、地域の人たちにどんなふうに思われるのかを気にしてなかなか外出できなかったり、外出しようとすると腹痛が起きてしまったりする人もいます。避難者であることを隠したまま生活をしているため、地域の人達と話すときにどこまで話をしていいのか、どこまで関係性を持てるのか、戸惑いながら生活している人もいます。親ミーティングのメンバーが信頼できる人と思えるようになってくると、津波で家族を亡くされた時の大変さや後悔を話される方もいます。避難先で行われるこの事業では、そういった他では出来ない話がされたり、親ミーティングの中でもトラウマ・ケアがなされたりします。土地勘のない避難先の地域にある資源についての情報交換もされます。特にそのような人たちにとっては、同じ境遇にある人たちの集まりであるため参加しやすく、安心して自分のことを話せる場となっています。震災後に避難指示のあった町村に嫁いだ人も、避難指示の合った町村の方の話を聞いて、「夫が"避難者だと言うな"と言っていた意味がわかった」「そんな思いをしながら生活しているとは思わなかった」と共感し、大変さを労ってくださいます。今まで語られずにきた話しにくいことを、いかにファシリテーターが守れれた空間を作って話しやすくするかがこの事業内でできる心のケアと考えます。

これからの生活

 この事業に参加されている方は、避難先に家を建てて定住される方が多いですが、2017年3月には住宅無償提供が打ち切られることとなり、「どこに住むのか」「どこでどう生きていくのか」「同居するのか」などの判断と選択が迫られています(文章作成:2016年時点)。そのことを「どう考えていますか?」とお互いに聞き合い、情報収集し、それぞれの判断を求めます。それぞれが考え、決断することを支えていくことも大切なファシリテーターの役割です。

放射線不安と気持ちの共有の難しさ

 避難指示を出されることなく、震災前と同じ地域で生活している人たちが参加されているこの事業では、育児についての悩みが多く話題として出されます。震災後1~2年は、「放射能汚染から子ども達をどう守ればいいのか?」「自主避難すべきか」「県内産の食べ物は大丈夫か?」とみんなが同じ曖昧な気持ちを持ち、ファシリテーターが促さなくてもその不安を話しやすい状況でした。

 しかし時間の経過とともに、迷い続け、不安に揺れている人と放射線のことは気にしていない人の両極に分れ始めました。気にしていない人にも2タイプがあり、いろいろ情報を集め考えた結果、気にしなくていいと判断した人と、考えるほど不安になるし解らないことなので、気にしないことにした人に分れました。そして日常の会話で、放射能や放射線不安について話題にしない不文律のようなものができました。本当は気にしているけど放射線のことをまだ気にしていると思われたくない人、疲れてしまい考えないことにしている人もいて、様々な思いの人に寄り添う難しいファシリテートが要求されるようになりました。

 震災前と同じように生活を送っている地域でも、「水は買っていますか?」と尋ねると、水道の水に放射性物質が含まれているかもしれないと気にして水を買い続けている人もたくさんいます。「洗濯物は外にほしていますか?」という質問が出ることもあります。放射線不安を前面に出されると不快になるけど、普段の生活の中のことや子育てに関わってくる部分から聞いて行くと、大なり小なり放射線についての話が出てきます。他の人はどう思っているのか、どうしているのか聞きたいけど聞けない、という状況になっています。放射線不安の程度は人それぞれですが、「子どもの体に影響が出ないか」「子どもを守るためにどうするのが良いか」について悩んでいることはみなさん一緒です。本当は不安であることが出せなくなっていて、不安の潜在化・遷延化が心配です。そのため、普段の生活や育児の悩みに隠された放射線不安についてもファシリテーターがうまくすくい上げ、共有されやすいように話をしていくことが大切です。

子どもへの関わり方と発達

 避難先でも避難していない地域でのこの地域でも、子どもへの関わりが分からない、困っているという方が多くいます。全国的に親が子どもにうまく関われなくなっているという問題がありますが、福島では震災後、避難先や放射線などについて正確な情報を求めなければいけなくなくなったり、生活のストレスで大人たちの余裕がなくなったりしました。情報を得るために携帯電話やスマートフォンで検索したり、つながりを求めてSNSでのやり取りをする時間が増えたりと、子どもを見るよりも携帯電話やスマートフォンを使用する時間が増えて、子どもとの関わりが少なくなり、かまって欲しい子どもは反応を示して大人の気を引こうとし、それに対して大人は子どもを叱ったり、無反応であったりするため、多動で落ち着かなかったり、親の指示が聞けなかったりと、親とうまく愛着関係ができていない子が増えました。親子遊び中も、親から離れて他の遊びをしたり、会場から出たいと強く訴えて親を困らせたりする子も見られました。

 親子遊びでは、そのような親子にも愛着を促すようにゆっくりと焦らず遊びに誘います。親ミーティングでは、思う通りにならない親の気持ちに共感しつつ、子どもが求めていることを代弁したり、その子の発達状況に応じた関わり方をアドバイスしたりして、愛着形成のお手伝いをします。

 この際、ファシリテーターである心理士は、子どもの特徴が発達障害であるのか、あるいは愛着形成ができていないために起こっている行動であるのかの見極めが必要となります。それを見極めるために発達障害、そして通常の子どもの発達の知識も必要です。

甲状腺がん

 (執筆時2016年時点)これから問題となってくるのは、甲状腺がんです。これまでは原発事故由来の甲状腺がんではないと報告されてきました。原発事故から5年が経ち、チェルノブイリ原発事故4年後に甲状腺がんの増加が見られたという報告もあり、これからの検査結果によっては保護者の心配も尽きません。

ニーズについてのまとめ

 さまざまな立場やさまざまな価値観の人が参加する親子遊びと親ミーティングですが、話題になりやすい育児の話の中から、放射線不安や健康被害についても上手に話題にしていくことが今後も長期的に必要です。今後も原発や放射線の情報を得ながら、子どもの発達や放射線の知識を身につけ、参加するみなさんがお互いに共感でき、認め合い、エンパワメントされるよう、そしてそれぞれの不安や決断を支えられるよう、ファシリテートの技術を磨いていきたいと思います。
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