この活動は、保育士による「親子遊び」と、心理士による「親ミーティング」を組みわわせた支援活動です。親子遊びによって、親子の愛着促進とストレス解消を図り、親ミーティングによって保護者同士の支え合いを促進します。市区町村保健師による親子の事後フォローも組み込むことができます。保育士・心理士・保健師などの多職種協同の支援です。
親子遊びの詳細
実践のポイント
「親子遊び」の目的は「親子が触れ合って遊ぶことによる心のケア」です。親が抱っこやおんぶをして遊んでくれることで、子ども(乳児〜幼児)は"自分は愛されている"ことを感じます。楽しそうに笑う子の笑顔を見て、親も笑顔になります。子どもと親の笑顔の相互作用が心の安寧に繋がり、そのあと、子どもは安心して親から離れて保育士と遊ぶことができます。
保育士はその目的を主眼において、その時どきに集まった親子の数、子どもの年齢、きょうだい関係や親子の様子を見つつ、その場に合った親子のふれあいあそびを組み立て展開していきます。
親子遊びの流れ(主な例)
(わらべうた出典:小林衛己子より)
◆来場してすぐの親子は緊張しているので、パペットや車のおもちゃで自由遊びに誘いながら、さりげなく言葉かけしていきます。時間になり、おもちゃをかたづけて円状に着座、主催者があいさつとスタッフ紹介を行ったあと、保育士主導の親子あそびに入ります。(約30分)
◆おはようのうた・あいさつ・手遊びなど、みんなが知っている歌を行い、緊張をほぐして親子あそびへの期待感を持たせます。また、一人ひとり子の名前を呼びます。
◆ひざのせあそび/「おすわりやすいすどっせ」
ひざを伸ばしてリラックスさせ、ゆったりとしたテンポで子をひざに乗せて上下に揺すり、最後にストンと足を広げて子どものお尻を床に落とします。心地よい揺れとストンと落ちる意外性の繰り返しが楽しいあそびです。
♪おすわりやす いすどっせ
あんまりのったら こけまっせ♪
◆揺すりうたあそび/「このこどこのこかっちんこ」 時計の振り子のリズムのように立って抱っこしながら揺すります。親はわが子のぬくもりを感じながら、子はお母さんのにおいや肌の柔らかさを感じながら、ゆったりと呼吸を合わせて静かな時間を楽しみます。
♪このこ〜 どこのこ かっちんこ〜
このこ〜 どこのこ かっちんこ〜♪
◆おんぶで歩くあそび/「おうまさんのおけいこ」
おんぶして歌いながら歩き「いち、にのさん!」でカクンとひざを曲げてお尻を落とします。子は背中から落ちないように親にしがみつきます。繰り返すことで「つぎにくるぞ…」という期待感があり、「きた!」という応えがあって信頼関係が育まれます。赤ちゃんやおんぶが難しい子は抱っこでも大丈夫。
♪おうまさんのおけいこ いち、にの、さん!♪
(繰り返す)
◆スカーフあそび/「じいじいばあ」 透ける素材のスカーフの端と端を持って子どもの前で顔を隠し、ばあと顔を見せます。親という安心安全な人が見えなくなる不安感と見えた喜びがあります。「とんでった〜」でスカーフを空中に投げ、受け取ります。やわらかな色彩と布の感触を楽しむあそびです。
♪じいじいばあ じいじいばあ
ちり〜んぽろ〜ん とんでった〜♪
◆かけっこあそび/「よーいドン」
部屋の端から端へいっせいにかけっこします。はじめは親子一緒に。次は子どもだけで、反対側に待つ親にむかって走ります。そのとき親はしゃがんで両手を広げ、わが子を呼んで迎え入れます。ゴールでぎゅーっと抱き留めたら「よくできたね!」とほめることで、子は誇らしく親への信頼感がいっそう強まります。
◆たくさん体を動かした後でクールダウン
水分補給をしながらしかけ絵本を保育士が見せます。気持ちを落ち着けて保育士の方に集中するので、その後の母子分離にうまくつながっていきます。
〜親はピア・ミーティングへ、子どもは同じ会場の一角で保育士が託児(約60分)〜
◆おわりの会(約5分)/風呂敷パラバルーン
子は自由に遊び、親はミーティングで心が解放されたあと、再び親子が対面し、いとしい気持ちや喜びがあふれたところで、参加者全員がひとつの屋根の下に集まります。大きな天井が迫りくる驚きと恐怖に親子は密集し、次に沸き起こる風の心地よさを同時に味わいます。すーっと布が引いていく名残惜しさの中、他県の子育て親たちが福島の親子のために風呂敷を集めて手作りしてくれたものであること、「いつも応援しているよ!」というメッセージが込められた支援の風であることが告げられて、参加者もスタッフも温かい気持ちになり、外の方たちとの絆やこの地で子育てをする仲間との絆を感じることができます。
◆しあわせなら手をたたこうをみんなで一緒に歌いながら、わが子と「いいこいいこ・こちょこちょ・ぎゅ〜」を楽しみ、愛情の再確認をします。続いてお帰りのうた、さよならの挨拶をし、会を終えます。
(遊びの考案:永野美代子 絵:星玲子)
親子遊びの留意点
保育士による親子遊びは、このように一連の流れの中で進行していきます。一人の保育士が遊びをリードしているとき、もう一人の保育士はきょうだいで参加している親子や遊びに入れずにいる子どもをフォローします。保育士は必ず複数で対応し、参加者全員に心配りして、親子遊びが中断することのないようチームワークをとっていくことが大切です。
親ピア・ミーティングの詳細
実践のポイント
親子遊びが盛り上がり、水分補給で一休みすると親と子どもを分離します。同じ部屋の片隅で託児が保育士によってなされ、親はその様子を眺めつつ小グループを作り、お茶を飲みながらピア・ミーティングに入ります。同室で託児をすることによって子どもは親が見える場所にいるので、1歳前の乳児でも安心して遊びます。親たちも子どもどうし楽しく遊んでいるのを見て、安心して話が弾みます。
グループの構成
参加人数により4~7の間で小グループを作ります。グループに臨床心理士が1人ずつ入りファシリテーターになります。保健師や栄養士・助産師もグループに入り、親たちの声を聴き一緒に話し合います。子育て支援スタッフは託児を手伝います。
導入
ファシリテーターは、親たちがリラックスして話し合えるように、かんたんなリラクセーションを実施します。これから話すことは、ここだけの話にして他言しないで欲しいこと、話したくなければ無理に話さなくても良いこと等、簡単に説明してなるべく気軽に話せる雰囲気作りをします。
問いかけ1:いま困っていること
「今どんなことに困っていますか?」などと問いかけます。放射線不安のことや子育ての悩みなど何でも構いません。参加者が話しやすい話題で入ります。ファシリテーターの役目は、話し手が受容的雰囲気の中で話したいことが話せて、メンバーに聞いてもらえたと感じられるように配慮します。
問いかけ2:メンバー同士の助言
「同じ困りごとにこうしたら良かったという経験がありますか?」など、メンバー同士でアドバイスしたり情報を教え合ったり互いに共感し、役立つことができたと感じられるように話を振ります。
また、保健師や栄養士等にもアドバイスをもらいサポートしてもらいます。
問いかけ3:これからどうしたいか
「これからどんなふうにしたいですか?」「どうなるといいでしょう?」話の流れをまとめる問いかけを無理のない形でします。
話し合いの留意点
ファシリテーターは、メンバー全員が平等に話せるよう気配りが必要です。震災や原発のことを話したくない人と、心配でそれらのことを話したい人など異なる思いの参加者がいます。そのいずれの気持ちも尊重しつつ双方ともその思いを話してもらい受け止めましょう。しかも誰も傷つけないように配慮して下さい。
「親ピア・ミーティング」は、親どうしの絆に働きかけピア・サポート力を賦活して、参加者がエンパワメントされレジリエンス(回復力)を高める体験を提供します。地域の子育てに関わる専門職が協働することで、継続的に多角的に親子がコミュニティによってサポートされる体制が作られる支援です。