活動

2023.05.27

災害後の親子の心のケア(福島・東日本大震災)

東日本大震災後の福島県にて行われた親子の心のケアについて紹介します。災害・紛争・戦争などの緊急時の親子の心のケアのknow-howとして参考にしていただければ幸いです。当記事は2021年世界乳幼児精神保健学会(WAIMH)でのシンポジウム発表を元に作成しました。当記事の情報は2021年時点のものです。(演題:福島緊急事態後の親子のための遊び療法 2つのアプローチ 「親子遊びと親ミーティング」と「箱庭療法」, 演者:NPO法人ハートフルハート未来を育む会 臨床心理士 成井香苗)

東日本大震災と原発事故の状況

この写真は、2011年3月11日東日本大震災(M9.0)の大津波により電源を喪失し爆発した東京電力福島第1原子力発所です。廃炉の過程は困難を極め、あと30年以上かかると言われ、事故は収束していません。場所は、日本地図上の赤い点のところに位置します。
放射性プルームは、福島を覆い汚染しました。12市町村が避難地域に指定されました。黒い丸のところが私が住んでいる郡山市です。原発からは70Km。ちょうど福島県の真ん中にあります。私たちは、ここから福島県内のいたるところを支援して歩きました。
 除染して年間被ばく量が20ミリシーベルト以下になった地域は、避難民が戻ることが許されましたが、10年後の現在も立ち入りが禁止されている区域はまだ残っています。除染された土は、貯蔵場所に積み上げられています。
 避難解除となった町は約1割~4割の住民が戻ってきています。しかし、多くの避難者は、避難している間に住宅を獣に荒らされ、子育てには高い放射線量だから安心できないので戻れないと考えています。これを「あいまいな故郷の喪失」と呼んで、故郷に帰りたいけど帰れないつらさを表しています。

福島の親子の状況

先ずは、福島の親子の状況を共有しておきましょう。

1,福島の住民はpost traumaではなく、今もin traumaです。
 今年2月13日にもM7.3の大きな余震が起き、ダメージを受けた原子炉を収めた格納容器の水位が一時低下するなど、原発事故は収束していません。

2,避難生活が近隣関係を壊し家族を分断しました。
 乳幼児を育てる親たちは、Convoyを失って孤独な子育てになりました。
 避難者数は一時期16万5千人。現在も3万5千人が避難しています。

3,目に見えない放射能汚染下の子育ては、「曖昧な不安」で強いストレスを生んでいます。
 避難した親子も避難しなかった親子も、健康への影響があるのかないのかわからない不安にさらされました。

 例;小児甲状腺がん多発の原因は不明なまま現在252人
 (発症率38.3~13.4/10万人 地域差がある 当時避難地域にいた人に多い)
4,被ばく防護のため外遊びが制限され、子どもたちの外遊びの習慣が壊れました。
 室内遊び場(例;ペップキッズこおりやま)が各地域に設置されました。
 震災後のネット環境の普及で、室内のゲームや動画が子どもたちの遊びの主流になりました。親たちも子育ての孤独化や「曖昧な不安」からSNSやネット情報に依存し、乳幼児と親の関わりの量と質が低下しました。ゲームやネットへの依存は世界中のどこでも起きていた傾向ですが、放射線不安によって外遊びが制限され、親達は見えない不安に揺れていたため福島は余計にゲームやネットに親子ともに依存することになったのです。

5,これらのストレスは、親子の愛着形成に影響し、社会性や情緒の発達を損なう原因になりました。
 乱暴、多動、ことばの遅れ、集団行動が苦手、無気力な子が顕著に現れ、PTSD の発症、不登園・不登校が増加しました。小学校では暴力の発生件数が急増し、学級崩壊も起きたのです。
私たちは、乳幼児と親の愛着を育み、ストレスを軽減することにより、乳幼児の健全な発達を取り戻すということを目指して、支援を行いました。
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