活動

2023.05.27

災害後の親子の心のケア(福島・東日本大震災)

東日本大震災後の福島県にて行われた親子の心のケアについて紹介します。災害・紛争・戦争などの緊急時の親子の心のケアのknow-howとして参考にしていただければ幸いです。当記事は2021年世界乳幼児精神保健学会(WAIMH)でのシンポジウム発表を元に作成しました。当記事の情報は2021年時点のものです。(演題:福島緊急事態後の親子のための遊び療法 2つのアプローチ 「親子遊びと親ミーティング」と「箱庭療法」, 演者:NPO法人ハートフルハート未来を育む会 臨床心理士 成井香苗)

箱庭療法

 もう一つのアプローチIndividual approachは、PTSDや愛着障害など個別の問題を抱えるケースへのプレイセラピ―です。一つのケースを例示します。

1,ケースの概要:5歳男児。彼は2歳の時に被災し父方祖父母の家に、両親と避難してきました。避難する際に声もなく涙を流していたとのこと。恐怖は体に刻まれました。

2,問題;幼稚園で乱暴する。集団行動が苦手。頻繁に教室から出ていってしまう。落ち着きがない。しょっちゅう、母親のおなかにぴったりとくっつきたがる。それでいて母への後追いはしない。警報音に過敏に反応し、耳をふさぎ回避しようとする。

3、原因;避難途中に本児が目にした光景は破壊された町と数珠つなぎの避難する車という異様なもので、地震の揺れと共に恐怖体験としてPTSD を発症しました。

4,Therapyの方法;play therapyのなかでSandplay therapyを用いました。ユング派のカルフ女史が開発した「Sandplay therapy」は日本文化にもルーツがあり、国際的にも日本語で「HAKONIWA」とも呼ばれています。
2013年12月7日の箱庭 5歳
 砂箱に自由にフィギュアを選んで置いて、本児の好きな世界を作らせる。誘導はいっさいしません。
 赤い丸で囲んだ手前中央の骸骨(ダメージを受けている本児)をめがけてあらゆる恐ろしいものが襲ってくる。本児は「戦いを一瞬にして終わりにする」と言って、その上に綺麗な花々を入れて戦いを覆い隠しました。本児のフラッシュバックする強い恐怖感と回避反応がよく表れていると感じました。
 以後、2年間同じ戦いのテーマで箱庭を作り続けました。幼稚園への適応を図るとともに、母親に本児の退行を受け入れ「大丈夫だよ」と安心感を与えてくれるようアドバイスしました。母も避難してきて全く新たな環境に適応するので精いっぱいでした。そこを支えつつ本児の発信に応え相互的な母子関係をやり直して愛着の形成を図りました。箱庭は本児の叫びを伝え母の心を動かしていきました。
2016年5月21日 7歳の箱庭
「閻魔様の世界」 閻魔様は、へビをつないで作った円形に囲んである領域の中央にいます。サークルは死の世界であり、死んだ動物が閻魔様に裁かれています。死んだ動物は、これまで彼を苦しめた衝動性や攻撃性を象徴し、それが死んだとするとこれから彼は生まれ変わっていくのでしょうか?
 1年生の時に「僕は避難してこっちにきたんだよね」「震災のこと覚えているよ。海の近くのこういうところに住んでいたよね。津波が来て、お家めちゃくちゃで大変だったね。」と盛んに思い出し、繰り返し繰り返し話しました。2歳の時のトラウマをようやく言葉で表現できるようになったのです。母は繰り返し根気強く聞き「大丈夫ママがいるから」と伝え安心させました。
 その一方で、1年の時は学校で暴れたりすることがありましたが、この箱庭の後から衝動のコントロールがよくなり、2年生では素直に甘えることができるようになり精神的に安定しました。
2017年3月25日 8歳の箱庭
 箱庭の最終回。「動物園」を作りましたt。動物たちは種類ごとの柵に入り、小人たちが世話をしています。見学者が乗ってきた車も駐車場に止まっています。本能的な衝動性も情動もよくコントロールされ、社会への適応力が発達してきました。PTSDは、3月11日の震災の日の避難訓練も、フラッシュバックは起きず問題なかったといいます。学校生活の問題は消失しました。両親との愛着が安定し安全基地としての家庭も回復できたので終了しました。
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